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「焼け出され者」

最終更新日:2016年4月1日

 徳島市安宅 若槻 一子

 昭和二十年七月四日未明の徳島大空襲は、私一三歳の徳女一年生の時でした。
 東新町1丁目の若林道久(どうぐ)屋の五人兄弟の長女として生まれた私の下には、弟二人、妹二人(小五・小三・小一・三歳)がいました。父は呉公廠で軍属として徴用していましたから、母と、母の妹の猪股の叔母と、父の生前より一生つかえてくれた番頭の八人が、二手に分かれて避難致しました。
 先組に若い叔母に連れられた弟二人と上の妹の四人、後組が下の妹をおんぶした母と私と番頭の四人。今思えば弟や妹達はランドセルに教科書をちゃんと持ち出していました。えらい子達だと感心致しました。私達四人は寺町に在る檀那寺の長善寺さんの防空壕に避難させて頂きました。壕の中でそれはそれは恐ろしいシューシュー、バリバリ、ドカーンという大きな炸裂音を聞いた後、壕の外へ飛び出しますと、周りは一面火の海でした。夢中でお墓の中を逃げ、天神社と潮音寺さんの間の岩かげに身をみそめて朝を待ちました。
 驚くほどの大きな変な色の太陽が昇るのを眺めました。山に逃げた人で火傷や怪我をした人が沢山天神社の石段を運び降ろされてきました。今は新市内になりましたが、当時、板野郡川内村大松の母の里の中財の叔父達二人が石段を私達を探して登って行く姿を、お墓の間の下から見付けました。叔父達は「皆殺しだ!」と覚悟をして探しに来てくれたとの事。今も忘れる事が出来ません。
 火の手が収まり防空頭巾に破裂した水道管より吹き出す水を掛け掛け、火気有る焼けただれた街を徳島駅の方へ歩きました。一面の焼けのが原でした。目標になる一楽屋が残っていました。その時、残っていた家のお蔵も、渡った新町橋も後になり火を吹いたり、焼け落ちたりで無くなってしまいました。徳島駅近くで、罅(ひび)割れの有る大きな防火水槽に、丁度お風呂にでも入ってる様な美しい姿で、炭の様に真っ黒こげになられた二人の御遺体にお会いしました。何処をどう歩いたか今は忘れましたが、前川の刑務所の前を通り、吉野川橋を渡り、大松の中財家へ行った様に思います。先に逃げた弟達四人も皆無事に着いていました。眉山を蔵本方面へ下り、吉野川の土手を引返して吉野川橋を渡り、中財へ行ったとの事。八人が皆無事を喜び合いましたが、それから中財に食事の面で迷惑を掛ける日が続き、近い所に松茂航空隊が在った為、返って機銃掃射を受けたり、爆弾を落とされたりで大変でした。中財の疎開の荷物を一緒に北灘の櫛木へ馬車でさらに疎開しました。櫛木は一寸も戦災の色なく夢の様でした。お腹も梨や新鮮なお魚で起こす事が出来ました。私は山の子や疎開の子と一緒に山を開墾しました。弟や妹達は山の分教場へ行きました。
 八月十五日の敗戦の御詔勅は疎開先のAさんのお宅のラジオで聞きました。玉音が解り辛く「一層奮励努力せよ」と仰せかと思いました。敗けたと解った時点でも子供心にまだ戦えるのに、一人になっても戦わねばと思った事でした。
 それから少し後には、アメリカ兵に女は犯される、股裂きに遭わされる等、心配も致しましたが……。
 父も櫛木に居る間に呉より帰って参りました。又、中財の疎開の荷物と一緒に川内へ帰り、東新町にバラックを建てる迄、中財の離れでお世話になりました。叔父や叔母、従兄弟達や村の方、村の徳女の上級生に声を掛けて頂いて、自転車の後ろに乗せてもらったり、荷馬車に便乗させてもらったりして、焼け残った富田小学校へ二部学習(市女と徳女)に通いました。父は東新町のお隣の焼け残った蔵でお町内のお友達と「さくら復興整地所」を作り、復員して来た若い人達と共に町の復興に当たってた様に思います。
 子供だった為に一寸も悲しかったり辛い思いをしなかった丈、叔父や叔母、両親は大変であったろうと今頃感謝の気持で一杯です。
 お世話になった叔父も叔母も亡くなりました。父も、父のお友達も亡くなりました。当時、同い年故に喧嘩をした従兄弟達も皆立派になりました。「焼け出された者、街で贅沢した罰だ」と言った村姑の様な小母さんも亡くなりました。
 戦災、敗戦に依る体験的な思い出は子供なりに一杯有ります。国際的に難しい事が起ころうとも、戦争は絶対にしてはならないと私は思います。勝っても敗けても犠牲が余りにも大きすぎますもの。
 戦後五〇年、私も六三歳になりました。これからは、一日一日を大切に過ごす様、努力致しています。

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